【Case 3】大手製造業がチケット管理システム「OTRS」を採用 グループ内でヘルプデスク業務改善を、OSS導入とプロセス変革支援で実現

(インタビュー実施時期:2019年3月)

OSS活用ポイント
  1. ソフトウェアのコストを下げ、予算内でプロセス変革までのトータルサポートを実施
  2. SCSK自身で利用実績のあるソフトウェアを選定し、自社で培ったノウハウを提供
  3. ITIL準拠、Active Directory連携といった必須要件をカバー
開発メンバー
SCSK株式会社
ITマネジメント事業部門 マネジメントサービス 第一事業本部 製造マネジメント サービス第二部 第一課 課長
水谷 亮
SCSK株式会社
ITマネジメント事業部門 マネジメントサービス第一事業本部 製造マネジメント サービス第二部 情報処理(ITSM・NW), ITIL Intermediate, ZABBIX認定プロフェッショナル
前田 明範

お客様の課題
グループ内ヘルプデスク業務の変革。現状把握からプロセス改善KPI設定までを模索

日本政府による働き方改革の旗振りもあり、生産性向上や残業時間の削減は、いまや多くの企業が直面する課題だ。ある大手製造企業でも、グループ内のヘルプデスク業務において、業務変革が大きな課題となっていた。同社は、中期経営計画の中で、ヘルプデスクの生産性や貢献度の向上を策定しており、業務変革の糸口を模索してSCSKへ相談を持ち掛けた。SCSKは相談を受け、まずはアセスメントツール「EasyCheckup」を使って、課題の洗い出しに取り掛かった。その結果、グループ内のヘルプデスク業務における課題が明らかになったのだ。

この大手製造企業でのヘルプデスク業務には、3つの課題があった。1つ目は、業務が標準化されてないことである。メールや電話で受けた問い合わせ情報は、スタッフ個人のPCの中だけに保持され、情報が散在。さらに問い合わせ対応もスタッフによってばらつきがあり業務全体の品質が標準化されていなかった。2つ目は、改善をするための指標の策定。適切なKPIを設定し、可視化する必要があった。「現状が良いのか悪いのかの判断基準がなく、何をどう改善していくかの指標が必要でした」と、プロジェクトを率いたITマネジメント事業部門 マネジメントサービス第一事業本部 製造マネジメントサービス第二部の水谷亮は、当時の状況を振り返る。そして3つ目は運用におけるコスト削減である。新たなパッケージを導入したとしても、その導入費や運用におけるコストも、従来よりも低減させる必要があったのだ。

OSS選定の経緯
ソフトウェアのコストを下げ、予算内でプロセス変革までのトータルサポートを提案

相談元の大手製造企業が望んだのは、ヘルプデスクの業務変革だ。「単にツールを導入すればよいわけではありません。SCSKとしては、プロセス変革を実現するためのサポートも必要だと考えていました」と、水谷は説明する。しかし、通常の商用ソフトウェアパッケージを利用すれば、プロセス変革のためのサービスにかかるコストと合わせて、全体の予算が膨らんでしまう。 そこでSCSKは、OSSを使ってツール自体のコストを下げ、ドキュメンテーションを含めたプロセス定着へのサポートも予算内で実現する方法を提案した。 有償ツールも含めた各種ツールの比較を実施し、業務の現状把握とあるべき姿を掘り下げていったのだ。

『課題に対するアプローチの提示はよくある話だが、現場に入ってプロセス改善まで踏み込んでくれるベンダーは他になかった』とお客様からお言葉をいただきました」と、水谷は提案時のお客様からの反応を振り返る。選定したのは、Open-source Ticket Request System(OTRS)と呼ばれる、依頼チケットを管理するオープンソースのシステムだ。問い合わせ案件番号にひもづいた「チケット」を管理して、ヘルプデスク業務のワークフローや各種情報を一元管理することができる。主な機能は以下だ。

  • サポート専用メールアドレスに届いた内容を自動登録する
  • ステータス管理/ワークフロー管理
  • 複数種類のサポート窓口に対応
  • チケットの分割や統合
  • イベントごとに担当者に自動でメール通知する
  • 質問ごとの対応履歴管理
  • メールテンプレートのカスタマイズ
  • インシデント管理、問題管理、変更管理
OTRSを使ったサポートイメージ

なお、OSSだからといって他の商用製品と比べて機能が劣るわけではない。 OTRSは仮想基盤上にあり、何か問題が起こったとしても障害復帰の直前まで記録が戻せる仕組みを実現している。また、各システムと連携することを想定して、Active Directoryとの連携を実装済みだ。エスカレーションによって別部門に対応依頼をする際にも、依頼された担当者は普段のIDでログインすることができる。さらに*ITILにも準拠しており、顧客の幅広い要件をカバーできている。

*ITIL (Information Technology Infrastructure Library):
ITサービスマネジメントの成功事例を体系化したITシステムのライフサイクルマネジメントに関するガイドライン。IT運用管理の実践規範を詳細かつ幅広く網羅している。

OSSならではの課題に対しても、SCSKは対策を持っている。実装にかかわる多くの場面では、実際に動かしてみたり、海外のコミュニティーからの情報を探して技術検証をしたりしなければならないことがある。 実は、OTRSはSCSK自身が自社に導入しており、豊富な利用実績があるのだ。「自社で使った実績や構築ノウハウを、お客様へ提供することで、導入に関するリスクを最小限にとどめることができました」と、設計・導入に携わったITマネジメント事業部門 マネジメントサービス第一事業本部 製造マネジメントサービス第二部の前田明範は振り返る。SCSKがかつて自社向けに実施したカスタマイズは、その変数や項目を変更することで当プロジェクトに適用でき、開発のスピードアップにも貢献している。

このようにSIerが自社で使っているソフトウェアを顧客へ導入するのは、プロジェクトの成功リスクを飛躍的に高めることができる。何か問題があっても、解決の方法を即座に探すことも可能だ。「SCSKにはOSS専門の部隊があります。OSSをビジネスに利活用する際に、どのように情報を得ればいいのかを知っており、地道な検証作業を忍耐強く進めるカルチャーがあります」と、前田は “ SCSKの社風 ” によって醸成されたメリットを説明する。

OSSの導入効果
見るべき指標が定義され、ヘルプデスク業務の状況が一目でわかるように業務改善を二人三脚で取り組み続ける

OSSであるOTRSの導入によって、インシデント件数、サービス対応時間、一次解決率といった各種指標がデータとして蓄積されるようになった。メールによる問い合わせは漏れなく電子化されている。そのデータを参照することで現状把握が一目でできるようになり、「今がいいのか悪いのかわからない」という導入前の状態から、「よくなった/改善が必要」といった、次の目指すべきアクションを取れる状況になっている。かつて飛び交った「あの問い合わせはどうなった?」といった言葉が聞かれることはなくなっている。経営視点で見ても、中期経営計画であった「ヘルプデスクの生産性や貢献度の向上」の進捗を正しく確認できるのは大きなメリットだ。「改善できている部分が明らかになることによって、部門の士気向上といった副次的効果も生まれています」と、前田はその効果を説明する。

各種指標のグラフサンプル

プロセスに関しても改善が加えられ、ドキュメント化されることで業務の標準化が図られた。ヘルプデスクの業務品質が対応スタッフに依存することなく高く保たれるようになっている。前田は「さらなる品質向上と業務標準化を、現在もお客様とともに取り組んでいます」と、「カイゼン」への意欲を語る。業務の標準化されたことで、トレーニングが必要な新規スタッフの採用時のハードルも下がっており、運用のコスト削減にもつながっている。

OSSを選定したことによるライセンス費の削減は、追加予算なしでの、プロセス変革への投資を可能にし、プロジェクトの成功を大きく後押しした。

整備する運用ドキュメント

今後の展望
データ活用の基盤は完成。活用の可能性が広がる


OTRSの導入を通じた変革は、まだ始まったばかりだ。「OTRSを使ったチケット管理システムは、今後、さまざまなシステムと連携することで、適用できる業務の幅が広がると考えています」と、前田は今後の展望について語る。 これによってActive Directory連携による効果がさらに発揮されることになる。

データが一元管理され、蓄積されることでも、さまざまな可能性が生まれてきた。「たまったデータを分析することで、繁忙期の予測ができたり、質問の傾向がつかめたりするようになるはずです」と、水谷はデータ活用による可能性を強調する。「そのデータを使って、チャットボットを実装することで、簡単な質問は自動で解決できるようになるはずです」(水谷)。同じくOSSであるElasticsearchやKibanaを使って、OTRSにあるデータをリアルタイムでダッシュボード表示することもできる。

当プロジェクトは、OSSの導入に限らず、プロセス変革までもサポートしたのが大きな特徴だ。SCSKは顧客業務に深く入り込み、改善のさらなる可能性を見つけ出している。「お客様の中期経営計画実現のために、ITの分野でまだまだサポートできることはあると考えています」と、水谷は締めくくった。

製品・サービスに関する問い合わせ先: 問い合わせ専用フォーム

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