OSS X Users Meeting #23「OSSがリードする先進分野の技術~AI/DeepLearning,自動運転,ロボット開発~」

2018年3月12日に開催された特別セミナー「OSSがリードする先進分野の技術」について、セミナーレポートとしてご紹介します。

最初に、SCSK株式会社 R&Dセンター 技術戦略部 OSS戦略課の丹羽課長より、当勉強会の紹介がありました。「OSSユーザーのための勉強会」は、注目すべきオープンソースソフトウェア(OSS)を題材に、開発コミュニティの当事者とこれからOSSを学びたい人との交流・相互理解を通じて、共に見識を高めるための勉強会シリーズ「OSSユーザーのための勉強会 <OSS X Users Meeting>」を、2012年10月から開催しております。本年度5周年を迎え、記念イベントとして、2018年3月12日に「OSSがリードする先進分野の技術」をテーマに特別セミナーを開催いたしました。

ご挨拶:OSSユーザーのための勉強会のご紹介 

ディープラーニングで人間に近づいた、音声認識と音声合成

国立情報学研究所コンテンツ科学 研究系
准教授の山岸順一氏

オープニングセッションとして、「ディープラーニングを利用した音声認識と音声合成」というテーマで、国立情報学研究所コンテンツ科学研究系の山岸順一准教授が講演されました。

「現在、音声技術が組み込まれたさまざまな製品が急速に普及しており、私達の日常で、音声技術を使用したサービスが利用できるようになっています。主な例として、音声検索「Google voice search」、音声翻訳「Google translation」、音声対話エージェント「Siri」「Google Assistant」「Amazon Alexa」などがあります。」

ディープラーニング技術の登場により、合成された音声品質も劇的に向上しており、人間が話す音声とほぼ同一レベルの音声合成が行えるようになっているそうです。また、音声認識についても、人間の単語認識精度と同レベルにまで達しているとのことです。

山岸氏は次のように語りました。

「音声技術がシンプルに利用できるようになったことで、副次的メリットとして、新興企業が参入しやすくなり、新しいビジネスを生み出すことができる技術の1つになっている」

ディープラーニングを利用した音声認識と音声合成:セッション資料 

オープンソースの活用が進む、ロボット開発

産業技術総合研究所
ロボットイノベーション研究センター
ロボットソフトウェアプラットフォーム研究チーム長の安藤慶昭氏

次に、「ロボット開発/ RT-Middlewareの特長と最新動向」というテーマで、産業技術総合研究所 ロボットイノベーション研究センター ロボットソフトウェアプラットフォーム研究チーム長の安藤慶昭氏が講演されました。

「RT-Middleware(Robot Technology-Middleware)」とは、モジュール化されたソフトウェアを組み合わせてロボット制御システムを構成するミドルウェアツール群です。モジュールを組み合わせてロボット制御システムを構築できます。2002年前後から、産業技術総合研究所で研究開発をしています。
RT-Middlewareは「リアルタイム制御」で特に力を発揮します。例えばヒューマノイドロボット(多軸ロボット)などの「モーター数が多く複雑な制御が必要なロボット」では、リアルタイム制御が重要ですが、このような領域で活用されるものです。1ミリ秒~5ミリ秒周期で姿勢安定化制御を行える性能を有しています。」

またRT-Middlewareでは、複数のシステム(ロボット)が連携して動作できるシステムを構築できます。「ロボット内LAN連携」「ネットワーク越しの連携」などの分散システムを容易に構築できます。

「産業技術総合研究所では、RT-Middleware実装を「OpenRTM-aist」というオープンソースとしてリリースしています。ライセンスは「LGPL(ツールはEPL)と個別契約のデュアルライセンス方式」になっており、「コンポーネント(RTC)の自由な流通」と「ハード固有の改良などに対するクローズド戦略」に対応しています。RT-Middlewareの仕様は標準化されており、他にも本田技術研究所版「HRTM」や、セック版「OpenRTM.NET」など、10種類以上の互換実装が存在しています。」

RT-Middleware開発チームをはじめとしたロボット関連の開発チームは、日本でも世界でも「オープンソース活用」を積極的に行っているそうです。

安藤氏は、次のように抱負を述べられました。

「私達が関わっているプロジェクトでも、オープンソース活用について真正面から取り組み、さらに活用を進めていきたい」

ロボット開発 / RT-Middlewareの特長と最新動向:セッション資料 

公道実験、実証実験が進む「自動運転 / Autoware」

大阪大学 大学院基礎工学研究科
助教の安積卓也氏

次に、「自動運転 / Autowareの特長と最新動向」というテーマで、大阪大学 大学院基礎工学研究科 助教 安積卓也氏が講演されました。

「自動運転ソフトウェアとは、ドライバーに代わり、ハンドル/アクセル/ブレーキを操作する機能を提供するものです。車体内部のエンジンに対する直接制御などは含みません。その中で、「Autoware」という、オープンソースの自動運転システムがあります。」

各種環境センサーを利用して、自車位置や周囲物体を認識しながら、指定されたルート上を自律走行できるとのことです。名古屋大学/長崎大学/産総研による共同成果の一部として、自動運転の研究開発用途に無償で公開されています。

「Autowareは、Ubuntuで動く、ロボット用ミドルウェア「ROS(Robot Operating System)」上で動作します。ROSは、ロボット開発におけるライブラリやツールを提供するもので、「Publish / Subscribe モデル」「分散システム」「視覚化・シミュレーション」「豊富なパッケージ(デバイスドライバ/ライブラリ)」などの特徴があります。
自動運転を行う場合、自分の車の位置を正確に把握する必要があります。Autowareでは、さまざまな状況に対応できるように、「GPS」「高精度3次元地図」「360度距離測定センサー(LIDAR)」「スキャンマッピング」などの各種技術を活用して、自己位置を推定します。また、カメラなどのセンサーを使用して、周囲の状況を取得/分析して車両操作を行います。」

Autowareの物体認識機能では、ディープラーニングを活用しています。ディープラーニング技術の発達により、30フレーム/秒以上の処理が行えるようになってきているそうです。

「Autowareでは
ステップ1 大まかな経路設定(現在いる場所からゴールまでのおおまかな経路を設定)
ステップ2 軌道生成(現在いる位置から50メートル先程度までについて、車線変更や物体回避を行うための詳細な軌道を作成)
ステップ3 車両制御(生成された詳細な軌道に沿ってハンドルを操作して、車両をコントロール)
という3ステップで経路計画を作成して、車両制御を行います。」

現在、Autowareを利用した「公道実験」「日本郵便での実証実験」などが行われています。講演内では、自動運転の動画を交えたわかり易い説明が行われ、安積氏は次のように語られました。

「オープンソースソフトウェアを組み合わせるだけで、ある程度の自動運転を実現できるようになってきています」

自動運転 / Autowareの特長<と最新動向:セッション資料 

日本生まれのオープンソース、Deep Learning フレームワークの「Chainer」

株式会社Preferred Networks Chainerエバンジェリストの梅澤慶介氏

次に、「Deep LearningとChainerの貢献」というテーマで、株式会社Preferred Networks Chainerエバンジェリスト 梅澤慶介氏が講演されました。

「Chainerとは、Preferred Networksが開発を行っている、オープンソースの日本製ディープラーニングフレームワークです。世界中で利用されており、特に日本で人気があるフレームワークです。また、GPU計算を担当するライブラリが「CuPy」として独立しており、GPUでの処理を容易に行える特徴があります。
Chainerには、多くの追加パッケージ/ツールが用意されているため、さまざまな用途に対応できます。例えば、以下のようなパッケージがあります。
・分散深層学習用追加パッケージ「ChainerMN」
・深層強化学習ライブラリ「ChainerRL」
・画像認識アルゴリズム「ChainerCV」
・可視化ツール「ChainerUI」
・Biology/Chemistry分野特化ライブラリ「Chainer Chemistry」 など
既存の機械学習では、人間が画像などから特徴量を抽出する作業が必要であったため、時間とコストの面において大きなハードルになっていました。一方、ディープラーニングでは、人間は生データを入力するだけでよく、手間をかけずに、機械学習と同等、もしくは、それ以上の結果を得られるため、大きな注目を集めています。」

ただ、ディープラーニングには多くの課題があるそうですが、それらの課題を克服するための手段も生み出されています。

「例えば、計算パワーが不足して、学習するために数十時間~数日かかる場合があります。その解決策としては、「GPU」「FPGA」「専用プロセッサ」などを利用したり、大規模分散処理により高速化できます。」

ディープラーニングの精度を上げるためには、大量の学習データが必要ですが、そのデータを揃えることがハードルになっている、という課題については、シミュレーションにより学習させる「強化学習」という手法が期待されているとのことです。これにより、ロボット制御やドローンの制御、自動運転などの分野で、さらにディープラーニングが活用されるだろうとのことでした。

梅澤氏は、Chainer User Groupの活動内容や開催予定のイベントに触れ、参加を呼びかけられていました。

Deep LearninerとChainerの貢献:セッション資料 

最後に

勉強会の終了後、恒例となっている懇親会が行われ、講演者への質問や参加者同士での情報交換、有志による複数のライトニング・トーク(LT)も披露されました。講師の方に質問したり、参加者同士で歓談したりと、それぞれに親睦を深めていました。

車載向けOSSで遊んでみた:ライトニングトーク資料 

AIへのInput。IoTからのOutputはノンプログラミングで開発!:ライトニングトーク資料 

AIへのInput。IoTからのOutputはノンプログラミングで開発!:ライトニングトーク資料 


最後に、SCSK株式会社 R&Dセンター 歌原副センター長より、講演者および参加者へのお礼と、2018年度も「OSSユーザーのための勉強会」を継続し、OSSの市場活性化と人材交流に一層努めたいと語りました。

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