OSS X Users Meeting #26「デジタルトランスフォーメーション~社会・産業・生活を変える技術~」

2019年2月27日、SCSKのR&Dセンターが主催する特別セミナー「OSSユーザーのための勉強会 <OSS X Users Meeting >」 第26回」が開催され、110名以上の参加者にお集まりいただきました。

続々と会場入りする参加者の皆さん
会場は110名を超える参加者で超満員
デジタル トランスフォーメーションのテーマに高い関心

今年の特別セミナーは、「デジタル トランスフォーメーション ~社会・産業・生活を変える技術~」と題して、各分野のキーマンにご登壇いただき、デジタル トランスフォーメーションというムーブメントにまつわる最新の注目技術についてユニークで活発なセッションがおこなわれました。以下にその概要をお伝えします。

ありものの技術を組み合わせて動かせるIT人材が求められる時代

SCSK R&Dセンター 技術戦略部
OSS戦略課 丹羽課長

開会にあたり、SCSK R&Dセンター 技術戦略部 OSS戦略課 課長 丹羽 幸雄より、当勉強会の紹介と今回の趣旨について説明しました。

「世の中には、1)システムをスクラッチで作るスキルを持つ人材、2)ありものの技術を組み合わせて、とりあえず動くものを作るスキルを持つ人材という2種類に大別されます。今後のデジタル トランスフォーメーションの時代には、スピーディにサービス化を実現し、改善を繰り返しながらブラッシュアップしていくことが必要となるため、後者のスキルを持つ人材が求められていくでしょう。この勉強会がデジタル トランスフォーメーションを実現する人材の育成に役立つことを期待しています。」

OSSを使っていることを強調することに意味がない時代の到来

日本マイクロソフト株式会社
クラウド&ソリューションビジネス統括本部
グローバルブラックベルトセールス部
OSS Japan Tech Lead
日本OSS推進フォーラム
クラウド技術部会 藤田 稜氏

オープニングセッションは、「デジタル トランスフォーメーションにおけるOSSの活用」をテーマに、日本マイクロソフト株式会社の藤田 稜氏が講演されました。

冒頭、藤田氏は、デジタル トランスフォーメーションについて、以下のように語りました。

「デジタルトランスフォーメーションは、人間生活のあらゆる局面に変化をもたらすものです。あらゆる業界にビジネスの機会をもたらし、特にスマホの普及とモバイルネットワークの高速化により、スマホアプリはサービスの最前線となっていくでしょう。」

また、アプリケーションのモダナイゼーションが必須となり、小さなコンポーネントをお客様の要求に従って迅速かつ継続的にデプロイする必要があるといいます。

「今やサービスはアプリケーションそのものであり、デジタル トランスフォーメーションの世界では、全ての企業がアプリケーション開発&デプロイ企業になる必要があります。そのため、サービス基盤もオンプレミスからFaaS(Function as a Service;サーバーレスプラットフォーム)など、クラウドへと大きく変化すると予想します。
マイクロソフト社もOSSに注力しています。特にAzure部隊はOSSの知識が必須で、既存のプロプライエタリ技術をOSS化して、Azureに対応するように努めているほか、KubernetesやDocker、OpenJDKなど、さまざまなOSSコミュニティにコードや知見を提供することで、ビジネスを支えるOSSに最も貢献しているIT企業のひとつとなっています。最近では、GitHubがマイクロソフト傘下になったことが大きな話題となりました。また、AzureでのOSS利用事例としてトヨタ自動車様の事例があり、コストの大幅な削減とスケーラビリティを実現しています。」

講演内ではAzure上にPostgreSQLサーバーを構築し、リソースグループ内にKubernetesでコンテナノードを構築する一連の流れを実演されました。クラウドとOSSを活用して、従来数ヶ月かかるサービスの立ち上げを、わずか半日で可能にしたといいます。

最後に藤田氏は、以下のように語り、セッションのまとめとしました。

「グローバルなマーケットの中で競争するにはスピードが必要です。これがデジタル トランスフォーメーションの姿です。BigData、Blockchain、Deep Learning、AIは全てOSSから生まれています。OSSを使っていることを強調することに意味がない時代になったと考えるべきでしょう」

デジタル トランスフォーメーションにおけるOSSの活用:セッション資料 

皮膚ガン・乳ガンの診断で、医師と同等の検出率をあげるディープラーニング

九州大学 大学院システム情報科学研究院
情報知能工学部門 教授(主幹教授)
数理・データサイエンス教育研究センター長
博士(工学) 内田 誠一氏

続いて、「Deep learningの医用画像解析応用」とのテーマで、九州大学の内田 誠一氏が登壇し、専門の画像情報学について、さまざまな応用事例を紹介されました。

「画像処理技術の中でも、画像の認識や合成などに関わる学問が画像情報学と呼ばれています。その画像情報学と生物学とを融合させたバイオイメージ・インフォマティクスや、文字工学・文字科学のほか、防災、気象学、医学、物理学、天文学、スポーツ、心理学、法医学など、分野を超えたコラボレーションが多種多様に生まれています。
その画像情報学を支えている技術がディープラーニングです。わたしが何十年と研究した深層ニューラルネットワークの研究成果を、あっという間にディープラーニングに追いつかれた経験があります。それは、学生が作成した深層学習のプログラムが「印字文字認識」で99.99%の認識率、「手書き文字の認識」では99.89%の認識率、認識が難しい「飾り文字認識」でも、95.7%の認識率を出されたという経験です。
この結果を見て、わたしも本格的にディープラーニングに取り組むことになりました。
最近では、セマンティック・セグメンテーションと呼ばれる画像分類技術や画像変換技術が向上し、部屋の画像から椅子の細い脚の部分と、カーペットをはっきり区別したり、街の昼間の画像を夜景にしたりするなども可能になっています」

その他、実在しない人の顔を参考画像などを用いずに、リアルに合成する画像生成技術など、最新のディープラーニングの技術を紹介しました。

ディープラーニングは医用画像処理にも応用され、論文数が急速に増えているとのことです。

「皮膚ガン(上皮性悪性腫瘍)など、目視で診断する分野においては発見確率が格段に向上し、乳ガンのマンモグラフィーにおいても、ディープラーニングは医師と同等の病斑検出能力を発揮しています。また、膨大な医療データがあれば、病理組織画像からの余命診断でもおよそ7割が正しい診断結果となっています。」

ただ、糖尿病性網膜症診断においては、見落としは少なかったものの、誤って病気と診断する確率は高かったため、内田氏は、次のように指摘しました。

「最初は計算機でラフにスクリーニングし、限定されたものだけ医師が最終判断するようなフローが望ましいでしょう。
日本でも、日本医師会が人工知能と医師の関わり方を提言する動きがあります。メディカルAI専門コースもあり、実行する環境をオープンソースとして提供しています。また、国立情報学研究所(NII)は2017年にAI技術を活用した医療画像ビッグデータ解析研究のための計算基盤を構築し、最新の画像解析技術の研究を進めています。」

画像情報学研究者の観点から、医用画像とAIの組み合わせは面白い、という内田氏。
最後に「大学の講義で使った資料をネットでも公開しているので、ご自由にご覧ください」と呼びかけ、セッションを終了しました。

Deep learningの医用画像解析応用:セッション資料 

従来のブロックチェーン技術が持つ課題への長期的な解決策を示したBBc-1

一般社団法人ビヨンドブロックチェーン代表理事
慶応義塾大学 SFC研究所 上席所員 博士(政策・メディア)斉藤 賢爾 氏

最後となる3番目のセッションには、慶応義塾大学の斎藤 賢爾氏が登壇し、「BBc-1:Beyond Blockchain One ~ブロックチェーンを超えて~」のテーマで、既存のブロックチェーン技術の課題を解決するBBc-1の可能性について講演されました。

斉藤氏は、現状のブロックチェーンには2つの課題があると指摘します。

「1つは、パブリックなレッジャー(台帳)の課題です。課題として、暗号技術の安全性の低下や仮想通貨の暴落などの外因や、ブロックの生成時間が不均一となること、第三者から内容が参照できてしまうこと、などがあります。
もう1つはプライベートなレッジャーの課題であり、外部に対して内容を保証する必要があるという課題です。」

BBc-1は、従来のブロックチェーン技術が持つこれらの課題への長期的な解決策を用意し、かつ短期的に控える実証実験や、その後の実用化に至るまでのアプリケーション開発を支援する新たな基盤ソフトウェアです。

「BBc-1の特徴は、1)レッジャーにおける情報同士の関係性、記述力の高さ、2)システム上の「合意」を現実社会と一致させる整合性、3)改ざん検知の機会の向上です。
記録が可能で、その記録の存在が証明可能であるとともに、権限を持つ本人であることをデジタル署名で証明可能な場合に限り、アプリケーションレベルでその記録を更新することが可能です。」

従来のブロックチェーンの技術では、電子的な遺言書を作るのは困難です。デジタル化した遺言書の署名が本人のものであり、内容が改ざんされずに保存されていることを、利害関係のある全ての相続人に対して証明すること(「遺言書テスト」)は非常に難しいため、多くのいわゆるプライベート/コンソーシアムの台帳技術ではこのテストに合格できないはずだと、斉藤氏はいいます。一方で、BBc-1はその「遺言書テスト」に合格する技術として設計され、参照ソフトウェアも提供していると強調します。

「BBc-1には「ドメイン」と呼ばれる台帳システムの単位があり、そのトランザクション内容と存在は秘匿され、アクセスは制限されます。また、利害関係のないドメイン間では「コンテキスト証明」(Proof of Context ;PoCX)がおこなわれ、無関係のコンテキストの中にトランザクションのダイジェストを埋め込むことで存在性を外部から証明可能にします。」

その他、ブロックチェーンとBBc-1の台帳技術の比較表や、BBc-1に関するFAQなどを紹介し、参加者の理解を補完しました。

最後に斉藤氏は、次のように語り、セッションの結びとしました。

「ブロックチェーンの真価を発揮するために、私たちはブロックチェーンを捨てて、BBc-1を設計しています。今後もコア設計を洗練させ、ライブラリの充実化やサンプルアプリケーションの拡充をおこなっていきます」

BBc-1:Beyond Blockchain One ~ ブロックチェーンを超えて ~:セッション資料 

懇親会で恒例となったライトニング・トークに会場は盛り上がる

勉強会終了後、恒例の懇親会が開催されました。講演者と参加者との間で質問や意見交換などが活発におこなわれ、業種を超え親睦を深めるなど、大いに盛り上がりました。

懇親会では講演者も交えて活発な交流もおこなわれました
豪華な “ 軽食 ” も人気です
乾杯の音頭はマイクロソフト社の藤田氏に お引き受けいただきました

また、今回も懇親会の恒例となっている「ライトニング・トーク」がおこなわれました。

「いろいろな技術に楽しみながら触れる場を用意しています」と語る
SCSK R&Dセンター 技術戦略部の寺崎

最初に、「DX人材育成施策 ~『テクのこ』、『テクのこの里』~ご紹介」と題し、SCSK R&Dセンター 技術戦略部の寺崎 正志が発表しました。SCSKのデジタル トランスフォーメーション人材育成の取り組みにおいては、自律型IT人材の育成が必須であり、SCSK版ハッカソンと技術者交流の場においてさまざまな試験的試みが行われていると話しました。

DX人材 育成施策 ~『テクのこ』『テクのこの里』~ ご紹介:ライトニングトーク資料 

「これからは、企業家精神・好奇心・社外の知見が必要」と話す
SCSK 流通システム第三事業本部
流通・CRMサービス部の梶

また「DX人材育成施策 ~『テクのこ』~」に参加した経験談を、SCSK 流通システム第三事業本部 流通・CRMサービス部の梶 明日香が続いて発表しました。
技術コンテスト「テクのこ 東京」に出場したエピソードや、東大ガールズハッカソンの審査員、日本マイクロソフト様や楽天コミュニケーションズ様との共催セミナーで、講演も務めた経験から、ハッカソンのメリットとデメリット、そしてこれからのDX人材に必要な要件を説明しました。

ハッカソンに挑戦して実感した新しい未来:ライトニングトーク資料 

「PoCがPromotion to CxOになってはいないか」と指摘する
SCSK SC事業開発グループ SCDX事業化推進室 副室長の橋本

続いて、SCSK SC事業開発グループ SCDX事業化推進室 副室長の橋本 明が「PoCを成功させる! 改めて、そして基本に忠実に」というテーマで、デジタル トランスフォーメーション導入における概念実証(Proof of concept)の事例と、PoCを成功させるための要件について発表しました。

「これからもお客様との交流の場を設けたい」と語る
SCSK R&Dセンター 技術開発部 部長、兼 技術戦略部 副部長の嶋田

最後に、SCSK R&Dセンター 技術開発部 部長、兼 技術戦略部 副部長の嶋田 基史より、「この特別セミナーは、3年連続で100名を超える方々にご参加いただくとともに、講演者の方々からも貴重なお話をいただき、たいへん充実した勉強会になりました。今後もこのように皆さまと触れ合うことのできる機会を設けてまいりたいと思います。」とお話しし、挨拶といたしました。

活発な質問が相次ぎ熱気を帯びてきたライトニング・トーク

「OSSユーザーのための勉強会 < OSS X Users Meeting >」は、これからも最先端でユニークなテーマを取り上げ、開催していく予定です。
今後も皆さまのご参加をお待ちしております。

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