OSS X Users Meeting #33「オープンソースが創造する未来」

2022年3月23日に開催された「OSS X Users Meeting #33」。当日は多くの皆様にご参加いただき、誠にありがとうございました。

<OSS X Users Meeting> は、2012年にSCSK R&Dセンターが中心となり「OSSユーザーのための勉強会」として発足したもので、「旬な、注目のOSS」をテーマに、開発コミュニティの当事者とこれからOSSを学びたい人との交流・相互理解を通じて、共に見識を高めるための勉強会&セミナーイベントです。第33回となる今回は、「オープンソースが創造する未来」をテーマに、さまざまな知識と経験を持つ各界の第一人者の方々にご講演いただきました。

開会・ご挨拶

まず開会にあたり、OSS X Users Meetingのコミュニティメンバーの1人である株式会社スタイルズの矢野哲朗氏にご挨拶をいただきました。

「OSS X Users Meetingは、従来はオフラインで開催してきましたが、昨今のコロナ禍の事情によりオンラインでの開催となります。33回目の今回は、オープンソースが創造する未来をテーマに、業界を牽引する有識者の方々にご登壇いただきます。私自身もわくわくしています。気軽に楽しみながらお聞きください」

自動運転・MaaSを取り巻く最新ビジネス動向 ~巨大市場にある収益機会を考えるとオープンソースの必要性が見えてくる!?~

株式会社ストロボ 代表取締役社長
自動運転ラボ発行人
下山 哲平氏

最初のセッションでは、デジタルマーケティング事業を手がける株式会社ストロボの代表取締役社長であり、モビリティ業界系ニュースメディア「自動運転ラボ」の発行人でもある下山哲平氏に、「自動運転・MaaSを取り巻く最新ビジネス動向 ~巨大市場にある収益機会を考えるとオープンソースの必要性が見えてくる!?~」と題して、自動運転とMaaSに関するビジネスとマネタイズポイントにフォーカスしたテーマでご講演いただきました。

下山氏は、自動運転をマーケットとしてとらえた場合、「少量多品種」と「デジタル生産」の2つがキーワードになると指摘します。

「例えば流通配送をイメージしたとき、従来なら1トンもしくは2トンのトラックで荷物を運ぶのが一般的で、そのニーズに対応するため少数の種類のトラックを大量に生産していました。これが自動運転時代になり、モビリティがサービス化していくと、ラストワンマイルに届けるためのニーズが多様化していきます。ネットスーパーの場合なら、冷蔵対応、冷凍対応、両方を乗せられるものなどのバリエーションが必要で、必然的に少量多品種になります。そうなった場合、これまでのように大規模な工場を用意し、金型や治具を使って一律に自動車を生産するやり方では成り立たなくなります。結果として『デジタル生産』が必要となり、3Dプリンターのようなテクノロジーを使ってクイックに対応していくことになるでしょう。ハードウェアが変わるということは、ソフトウェアも変わることが必要になります。したがって、ソフトウェアではコモディティ化やモジュール化が求められるようになり、短期間に開発するためにOSSの重要性が高まっていきます」

そして自動運転のビジネスは、「裾野」が拡がっていくことも大きな特徴です。自動運転は「車が自動で動くことで生まれる市場」であり、このことこそが「自動運転マーケット」になります。

「2000年代にスマートフォンが登場した結果、eコマースが急成長しました。動画サービスやゲームの市場も、スマートフォンがなければここまで大きくなることはできなかったでしょう。自動運転も同様で、新しい技術が登場した結果、フードデリバリーサービスや、スーパーやコンビニの配送サービスといった新しいビジネスが生まれました。すると配送を効率化するための技術が必要となり、さまざまなシステムとのインテグレーションやコネクテッドが求められます。つまり、自動運転が実現することで、その上に乗るビジネスが拡大し、“裾野の裾野”まで拡がっていくことになるのです。大きなビジネスにつながる自動運転において少量多品種を実現するためには、コストがかからず、スピーディに開発できるOSSが重要であることはご理解いただけると思います」

技術者の中には、自動運転が現実的なビジネスになるまでにはもうしばらく時間がかかるので、今自分たちが作っているソフトが直接役に立つことはないと考えている方もいるでしょう。しかし実際は、その世界はすぐ目の前にあり、ユーザー体験を先行して提供することで、将来の勝者になることができると下山氏は言います。

「自動運転における重要なキーワードは、“自動運転を活用することがmustではない”ということです。すでに自動運転時代へのつなぎとなるビジネスが、目の前に存在しています。それは、自動運転の代替リソースであるギグワーカーを活用したサービスであり、代表的な先駆者がUber Eatsです。Uber社は現在、配達員に人件費を払い、大量の赤字を垂れ流してでもフードデリバリーサービスを提供しています。これは将来的に自動運転によって利益が出ることを見越し、“つなぎ”のために提供しているのです。つまり、ユーザーにオンデマンドなフードデリバリーサービスを体験させることで、先行者として優位性を獲得しようとしているわけです。まさに、壮大なPoCを実施しているといえます」

下山氏によれば、自動運転によって最も大きな影響が出る産業のひとつが小売業だといいます。将来予測では、自動運転により人や物の輸送コストが10分の1になると言われており、現在100円~200円の配送原価が理論上は10円~20円までダウンすることになります。すると、小売業者は製品の原価に配送料を乗せやすくなり、少量の商品を、素早く、安価に配送してほしいという消費者ニーズに応えられるようになります。

「リアル店舗から宅配への流れが加速し、ネギ1本を料理中の20分~30分の間に届けてもらうことも可能になります。このように、今は絶対無理だろうということが自動運転時代に実現する可能性を秘めているのです。エンジニアの方はすべてのマーケットにチャンスがあると考え、ソフトウェア開発に取り組んでみてください」

スマートシティ向けOSS「FIWARE」とデータ流通の展望

さくらインターネット研究所
上級研究員
菊地 俊介氏

2つめのセッションでは、さくらインターネット研究所の菊地俊介氏に、都市OSと言われるスマートシティ向けOSS「FIWARE(ファイウェア)」の概要、現状、データ流通の展望についてご講演いただきました。

IoTなどの先端技術を使って都市に関するサービスを連携させ、快適性や利便性を含めた新たな価値を創出するスマートシティは、高松市の「オープンデータたかまつ」など、すでに多くの取り組みがあり成果も上がっています。そうした中、スマートシティ等のシステムを実装する際に利用可能なOSSがFIWAREです。

「FIWAREは、都市OSという概念を共通基盤ソフトウェア群として実装したものです。同じようなシステムを重複して開発したくない、相互接続を実現したい、ソフトウェア部品(アプリ・サービス)を使い回したい、知見やノウハウを共有したいといったニーズをもとに、10年近く前に開発されました。共通プラットフォームとして標準のAPIとプロトコルが提供され、データモデルも標準化されています」

FIWAREのアーキテクチャは、データを交換する基盤となるサーバーContext Brokerを中心に、データを蓄積・分析・可視化するサービス部品と、さまざまなIoTデバイス等とデータをやり取りするためのインターフェース部品の3つで構成されています。

「データのやり取りには標準プロトコルNGSI(Next Generation Service Interfaces)を利用し、データの表現(セマンティクス)にFIWARE Data Modelsを利用します。FIWAREにはさまざまなサービス部品があり、いずれもNGSIでContext Broker、データ可視化、BIツール、プログラム環境などのアプリケーションやツールを呼び出すことができます」

FIWAREで基盤を構築すると、スマートシティに求められるデータの公開/データの可視化/データの流通(取引)が可能になり、これらのデータを他の人に使ってもらうこともできます。

「これまで、オープンデータを取り込んでFIWARE対応のウィジット型可視化ツールでダッシュボード化した事例や、CO2センサーのデバイスデータをContext Brokerに送信してデータを可視化した事例などがあります。データの可視化は、機能部品を組み合わせてロジックを作成するだけなので非常に簡単です」

FIWARE環境の作成には複数の方法があります。ひとつは自前で用意する方法で、Context Brokerを単独でインストールしたり、統合インストールスクリプト(FIWARE Big-Bang)を使ってインストールしたりすることです。

「FIWARE Big-Bangは自前サーバーを簡単に立てることができるツールです。Context Brokerなどのコアコンポーネントのほか、アプリケーションも同時にインストールすることができます」

データ流通の今後について菊地氏は、「利活用」、「連携(共有・交換)」、「流通(市場)」の3段階で進むと仮定した場合、現在は最初の「利活用」の段階にあり、効率的かつオープンな利用が始まっていると指摘します。

こうした中、近年注目されているのが、政府が推し進めている「デジタル田園都市国家構想」です。施策の全体像の中にはデジタル基盤の整備があり、国主導のもとで共通ID基盤、データ連携基盤等の実装や、構想を先導する地域への支援(スマートシティ、スーパーシティ等)が進んでいます。

「デジタル田園都市国家構想において、データ連携基盤は極めて重要な位置付けにあり、今後伸びていくことは間違いありません。これに向けて政府は、法人情報、アドレス、法律等の基本データ(ベースレジストリ)の整備を掲げています。今後はそこと連携する民間レベルのデータ基盤が重要になるため、FIWAREの利用が今以上に進んでいくことになるでしょう」

スマートシティ向けOSS「FIWARE」とデータ流通の展望:セッション資料 
:セッション動画 

OSS × オープンデータ × こどもシビックテック

株式会社jig.jp 取締役会長
オープンデータ伝道師
IchigoJam開発者
福野 泰介氏

3つめのセッションでは、「OSS × オープンデータ × こどもシビックテック」をテーマに、株式会社jig.jpの取締役会長で、オープンデータ伝道師として活動する福野泰介氏にご講演いただきました。

「一日一創」プログラマーをモットーとする福野氏は、子供のころからプログラムが好きで、携帯電話でPCサイトが見られるアプリ「jigブラウザ」を開発したことをきっかけにW3C(World Wide Web Consortium)に加入し、そこでオープンデータと出会いました。

「オープンデータとは、誰もが自由に使えるデータです。オープンデータはアプリ化することで大きく化けます。私も一日一創でさまざまなアプリを開発しながら活用方法を探ってきました。この活動の仲間を増やすために開発したのが、こどもパソコンの“IchigoJam(イチゴジャム)”です。1台1,500円で購入でき、福井県鯖江市のすべての小学校でプログラミング体験の授業に利用されています」

OSS、オープンデータ、こどもシビックに光明を見出した福野氏は、オープンデータ伝道師として活動する中で、2020年1月に新型コロナウイルス感染症対策の一環として海外渡航者向けの「外務省 海外安全情報オープンデータ検索アプリ globalsafe」を開発。さらに、民間企業による支援情報オープンデータ「民間支援情報ナビ(VS COVID-19)」も開発しました。

その後も、Code for Japan がリードし、307人ものコントリビューターを数えるまでになったオープンソースプロジェクト「東京都の新型コロナウイルス対策サイト」に参画。その派生としてオープンデータを使った「新型コロナウイルス対策ダッシュボード」が生まれました。医療体制の逼迫度を視覚化したこのサイトは公開後SNSで反響を呼び、累計1100万PVという大きなムーブメントを起こしました。

「こうした活動は、パソコンとプログラミング力さえあれば誰でもできることです。つまり、シビックテックとは地域の課題を市民がテクノロジーで解決することにあり、そのための武器は、オープンデータ、OSS、すごい技術等、世界中から無限に提供されています」

その後、福野氏は福井県でシビックテック活動を行う団体「Code for FUKUI」を立ち上げ、県内の自治体と共同開発を開始。「福井県施設ダッシュボード」「FUKUIワクチンダッシュボード」「鯖江地域通貨&SDGsポイントのデジタル化」などの作成を手がけました。東京都でも「新宿区行政サービスかんたん案内」や「東京都備蓄ナビ」を開発しています。

このほか、オープンデータ × オープンソース × こどもシビックテックによるデジタルツイン作りにも取り組み、OSSのフォトグラメソッドを使ったVRアプリの作成や、ブラウザだけで動くAIライブラリ「MediaPipe」を使った応用作成などを手がけています。

福野氏が次に見据えるのは、デジタル田園都市国家構想の実装で、社会をやわらかく包む柔軟なメッシュ型相互認証ネットワークの実現を目指しています。

「多くのところでさまざまなサービスを作ってみて、ベストプラクティスを横展開していくのが基本的な考え方です。連携するシステムをデータ連携としていく、メッシュ型で緩やかなデジタル田園都市を実現していけたらと思っています」

オープンデータやOSSを使ったシビックテックについて福野氏は、「ビジネスでないからこそ思い切ることができる」と強調します。

「ビジネスは儲かる、儲からないで悩むことが多く、なかなか一歩を踏み出せないこともあります。これがシビックテックであればリスクは少なく、撤退コストも高くありません。最新技術も使い放題で、スケールも後回しで構わない。ビジネスを考える一歩手前としてシビックテックを捉えてみたら面白いと思いますし、学生にとっても学びになります」

福野氏は総務省の事業「地域ICTクラブ」のもと、地域で児童・生徒と住民が一体となって、地域課題の解決等をテーマにプログラミングなどのICT活用スキルを学び合う活動を行っています。福井県鯖江市の「Hana道場」では、企業からの支援を受けて地域の活性化をモデル化したり、「越前がにロボコン」を開催したりとさまざまな活動を実践しています。学校教育においても、高校でのプログラミング授業やサイバーセキュリティコンテスト「CyberSakura」の開催、「DCON(全国高専Deep Learning Contest)」の参加校への支援などの活動に取り組んでいます。

「地方だからこそ創れる未来がきっとあると信じています。OSS × オープンデータ × すごい技術を活かすのは、仲間(シビック)です。今後もOSSとオープンデータを駆使して地域を盛り上げていきます」

OSS × オープンデータ × こどもシビックテック:セッション資料 
:セッション動画 

閉会・ご挨拶

イベントの最後に、SCSK R&Dセンター長の杉坂浩一より閉会のご挨拶をさせていただきました。

「今回の講演を通して、OSSはさまざまな分野で活用されていることがご理解いただけたのではないでしょうか。今やあらゆる開発環境がOSSの上で成り立っているといっても過言ではないくらい、世界中でさまざまなOSSが活用されています。ぜひとも皆さんのツールとして、積極的にこれらOSSを活用頂き、スマート社会の実現に向けご活躍頂ければ幸いです」
セッション中に記録された グラフィックレコーディング

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