麻生顧問・特別寄稿 「AIとは何だろうか?」

SCSK株式会社 R&Dセンター 顧問 麻生 英樹

急速に発展する「機械学習の自動化(AutoML)」

二つ目の「機械学習の自動化」、「メタ学習」も、研究が盛んになっているものです。
機械学習をするためには、学習の進め方に関するパラメータなど、いろいろな学習の設定を決める必要があります。学習の進め方以外にも、たとえば、学習に使う深層ニューラルネットワークの構造や、入力として使う変数の選択など、学習全体にかかわる選択肢を決めなくてはならず、それによって同じ学習データを使った場合でも、学習の性能が変わります。こうした選択肢は、学習によってチューニングするパラメータに対して、学習過程を調整するものであることから、超パラメータと呼ばれます。

これまで超パラメータは、試行錯誤によって決められてきましたが、組み合わせ最適化技術などを使って自動的に最適なパラメータを選べるようにする技術が「機械学習の自動化(AutoML)」です。この最適化を、一つの問題だけでなく、いろいろな学習課題に対する経験を利用して解いて行くことは、学習法についての学習とも言えるので「メタ学習」とも呼ばれます。効率的にメタ学習するための、複数の課題に有効な特徴表現の学習なども必要になるかもしれません。

こうした技術は急速に発展していて、たとえば、Google AutoML など、既に、いくつかのサービスも生まれていますが、技術はまだ断片的で、発展の余地が多く残されていると思います。

人間との共存へ ~「意識」と「無意識」の統合

最後の、「意識」と「無意識」の統合は、人工知能研究の長年の課題です。
人の情報処理には、無意識のうちに瞬時に進む「ファスト」な処理と、意識を集中してゆっくり進む「スロー」な処理があると言われています。たとえば、文字の認識や顔認識、音声認識、などは「ファスト」な処理です。一方、長い文章を読解したり、計算をしたり、将棋や囲碁の先読みをするような処理は、「スロー」な処理です。

これに対応するように、人工知能の研究でも、パターン情報の認識のような「ファスト」な処理と、論理的推論、記号的推論のような「スロー」な処理がそれぞれ独立に研究され、それぞれ性能を向上させてきました。しかし、たとえば、言葉の意味を人のように理解するためには、二つの処理をより緊密に結合することが必要と考えられています。人は、画像から文章を作ることもできますが、逆に文章から画像を作ることもできます。機械学習の世界でも、画像などのパターン情報を認識するだけでなく、その逆に画像を生成する研究(「生成モデル」の学習)が盛んになっています。特に、敵対的学習と呼ばれる方法は、データの分布を学習してそこからのサンプルを生成するために有効です。

この二つの処理を上手に統合して、高度な特徴表現を使ってデータの世界と記号の世界を自由に往来しながら、「自己教師あり学習」や「メタ学習」も使いつつ、世界のモデルを効率よく学習し推論することができれば、たとえば、人工知能が大量のデータから学んだことを、人にわかりやすい形で説明することで専門家を助けたり、逆に人が長い歴史にわたって蓄積してきた科学的な知識を人工知能が活用して、多くのことをすばやく学習したりすることにつながるかもしれません。そうして、人間と人工知能が共に向上してゆくことで、社会全体に蓄積されるデータと知識が増殖してゆけば、社会全体の生産性や創造性を高めることになるでしょう。それは、科学や工学といった、現在の人の「知」の姿や社会の姿を変えることにもつながってゆく可能性があります。

より良い社会に貢献するために

AI」とは何だろうか、という問いから出発して、あれこれと書いてきました。
最後は楽観的になりすぎたかもしれませんが、「AI」は、増え続けるデータに支えられて、組織や社会の生産性、創造性を高め、競争力と直結する汎用基盤技術としてさらに発展し、実世界のより多くの場面で使われるようになってゆくでしょう。その中で「AI」自体も姿を変えて、名前も変わってゆくかもしれません。社会に大きな影響を及ぼす「AI」によって、科学と同様に、様々な問題が生じることもあるでしょう。

しかし、後戻りすることはできません。「AI」は名前にすぎませんから、それが何であるかを考えるだけでなく、その背後で起こっていること、すなわち増え続けるデータと、それを使うための道具である「AI」を使って、より良い社会をどう作るかを、みんなで考え続けてゆくことが重要です。また、昔からの人工知能の研究者としては、それを通じて、人間の知能の仕組み、情報処理も解明されてゆき、人間が自分自身をより深く理解できるようになるとさらに良いと思います。
この小文が、そのために何かのヒントになれば幸いです。

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